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読み継がれる絵本

スリランカを代表する絵本作家のSybil Wettasinghe(シビル ウェッタシンハ)が2020年7月1日に亡くなりました。享年91(1928年10月31日生まれ)でした。
イラストレーターならびに文章書きとして新聞社で働いていた1952年(24歳)の時に、 Janatha新聞(現在は廃刊)の子供向けページに「කුඩ හොරා(クダ ホラ/The Umbrella Thief)」という物語を書きました。
きっかけは、Janatha新聞の副編集長(後に彼女の夫)であったDharmapala Wettasingheが、「村の娘ならきっと語るべき経験がたくさんあるに違いない」と物語を描いたことのなかったシビルに子供向けの物語を書くように勧めたといいます。
この物語は最終的には本として出版され、スリランカだけでなく国際的にも高い評価を得ました。
それ以降、彼女はイラストレーションだけでなく執筆にも力を入れ、200冊以上の児童書を制作してきました。
この絵柄、見たことありませんか?
彼女が書いた最初の絵本は「かさどろぼう」という名前で、日本でも出版され、現在もなお販売されている絵本です。ちなみに、1982年に開催された第3回野間国際絵本原画コンクールでは佳作となっています。
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野間国際絵本原画コンクール(Noma Concours for Picture Book Illustrations)優れた才能を持ちながら作品発表の機会に恵まれない、アジア(日本は除く)、太平洋、中南米、アフリカの各地域とアラブ諸国の新進アーティストを発掘し、創作活動を奨励することを目的とした原画コンクールで、野間国際図書開発基金をもとに公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)外部サイトへのリンクが主催し、1978年から 2008年まで隔年で開催されていた(2008年ー第16回で終了)コンクール。
彼女の本のほとんどは、日本語、中国語、スウェーデン語、ノルウェー語、デンマーク語、英語、韓国語、オランダ語、タミル語などの言語に翻訳されています。

絵本ナビのサイトを見ると、現在彼女の絵本は8タイトル刊行されているようです。
🔗絵本ナビ「シビル ウェッタシンハ」

著者名は見たことがなくても、「きつねのホイティ」など絵柄や題名を見たことがあるかもしれません

スリランカでも大変人気の絵本作家で、本屋に行くと必ず彼女の本のコーナーがあります。
2013年のスリランカの子供の日(10月1日)の記念切手には「かさどろぼう(クダ・ホラ;The Umbrella Thief)」の絵が採用されています。
「かさどろぼう(クダ・ホラ;The Umbrella Thief)」刊行60周年の記念の年(2016年)には、スリランカの傘メーカーRaincoから絵本の絵柄を用いた傘が販売されました。
同じく刊行60周年記念で、スリランカの有名陶磁器メーカーMidayaが彼女の絵柄を使った食器を販売しました。
食器に関しては現在もMidaya本店(コロンボ郊外のPannipitiya)で販売されています。
彼女の芸術的かつ文学的才能が評価され、長年にわたり数々の賞を受賞してきた彼女ですが、2012年に日本経済新聞社が創設ならびに協賛している「日経アジア賞(the Nikkei Asia Prize)」を受賞しています。授賞理由は地域の人々の生活を豊かにするために多大な貢献をしてきたことが評価されました。
なお、この「日経アジア賞」はアジアの発展と繁栄に貢献した人(団体)に贈られる賞で、「経済部門」「科学技術部門」「文化・社会部門」の3つの部門から各1名(グループ)の受賞者が選ばれますが、彼女は「文化部門」での受賞となりました。
スリランカ人の児童書作家・イラストレーターとしては初めての受賞となりました。

東京で行われた授賞式では、彼女について「スリランカの文化の多様性と、自然の美しさを生かした彼女の作品は、多くの言語に翻訳され世界中の子どもたちに愛されている」と紹介されました。

その授賞式のスピーチで、彼女は下記のように述べています

スピーチ要旨:子どもに幸せ届けたい(2012年5月24日/日本経済新聞掲載)

スリランカに生まれ、崩れかけた家に住んでいたが、夢があった。木々や鳥、風、雨が話しか けてきて、雲は魔法のような楽しい時をつくってくれた。こんな幼少期の体験が私の絵本の背 景になっている。自分で絵を描くことを覚え、長い間絵本を描き続けてきた。80歳を超えた今 も心は子どものままだ。
私の故郷は砂利道が舗装されオートバイが走るようになったが、田んぼや木々の中に「おとぎ の国」が残っている。人々の温かい笑顔も変わらない。幼少期の思い出をたぐり寄せて絵や詩 を創るのがお気に入りの時間だ。そうすることで子どもたちを楽しませたい。
世界中の子どもが私の子ども。子どもが私の人生に刺激を与えてくれる。私が受けた名誉は母 国と、絵本を通じて私を愛してくれるすべての子どものものだ。幸せな感情に包まれた子ども 時代を過ごすことが、人生で最も大切なことだ。

ぜひ、書店や図書館で彼女の絵本を手に取ってみてください。
色鮮やかな色彩と躍動感あふれる絵、そして心に残るストーリーが待っています。

日本経済新聞社-国際報道センター:岩城聡 記事

『シビル・ウェッタシンハ氏 :子ども心失わず、極上の物語描く』

こんなにも豊かな子ども時代を送った人が羨ましい。約80年前の少女の美しい記憶は、きらび やかな「宝石箱」。それを今も毎日そっと開けては極上の物語を紡ぎ出す。
インド洋に浮かぶ島国スリランカの南部。城塞都市ゴール近郊のギントタという村で幼少期を 過ごした。これが絵本作家としての、そして人生の原点だ。「自分の中に生き続けてきた"子ど も"が今も本を描かせている」と言うように、声も身のこなしも若々しい。
ギントタの人々は自然や動物と共存し、生活スタイルは極めてシンプルだった。幸せは共有し 、不幸な時は助け合った。誰も裕福ではなかったが、笑顔は絶えなかった。
「傘なんて誰も持っていなかった。雨が降れば葉っぱや袋を頭に広げるだけ」。世界中で翻訳 されている代表作「かさどろぼう」は、そんな少女時代の記憶から着想した。傘を見たことも なかった村の男が、町で見かけた傘の美しさに心奪われ持ち帰る。でも、何度買ってもだれか に盗まれてしまう。その"犯人"は意外にも――。
ごちそうにありつきたい一心で人間に変装したきつねと村人の化かし合い、切られるのがいや で逃げ出した男のヒゲ……。南国の鮮やかな色使いの絵とユーモア満載の物語には、思いやり や善悪の判断など、スリランカの「仏教的道徳観」がさりげなくまぶされている。読み手の子 どもは見たこともない、でもどこか懐かしい異国の情景の中にそれを見つける。
「一生のうちで一番幸せだった」という村での生活は7歳の時に終わりを迎えた。当時の宗主 国・英国の教育を受けさせるため、両親はコロンボへの移住を決意。外国から来た修道女らが 教壇に立つ学校では、母語のシンハラ語を話すことを許されなかった。
望郷の念は募るばかり。来る日も来る日も記憶をたどり、羽根ペンと黒のインクで村での生活 や風景を描き続けた。父親がその作品をコロンボのギャラリーに展示したところ、15歳の時に 教師用テキストに挿絵を描く機会が舞い込んだ。
大学への進学を望んだ母親の反対を押し切り18歳で新聞社に就職。週1回、子ども用のコラム に、自身が母親や祖母から聞いた詩や物語の世界を4コマのイラストに描いたところ評判を呼 んだ。
その後、別の英字新聞社で働いていた時、子ども面を担当していた記者がそばに来てこう言っ た。「なぜ、自分の物語を描かないの?」。そんな言葉に背中を押されて作ったのが「かさど ろぼう」だ。そしてこのアドバイスをくれた記者が、後の夫だ。1953年に結婚、2男2女をも うけた。
大好きだった夫は24年前に他界。今はコロンボ郊外に、仕事場と寝室と台所だけの質素な家に 一人で住む。午前4時に起床し、頭にあふれてくる言葉や絵のイメージを書き留める。1つの 作品を完成させるのに約4カ月。多作ではないと謙遜するが、200以上の作品を世に送り出し てきた。
家に招かれた日は蒸し暑い天気だったが、心地よい風が入るアトリエで絵筆を握る姿は少女の ようで愛らしい。「私は楽観主義。悲しいことは心に入れないようにしている」。難産だった 影響で、左目は生まれつき光がない。でも、それに気付いたのは32歳の時だというから驚きだ 。それまでは自動車の運転すらしていた。「私、距離感の才能があるみたいなの」とあっけら かんと笑う。
「多くの人間は、大人になると"内なる子ども"を失っていく」という。「例えば、隣の家は車 があるのに、今、2台目を買おうとしている。人と競い合い、今持っているモノで決して心が 満たされないのが大人。だからいつまでたっても幸福を得られない」とは耳が痛い。
「幸せな感情に包まれた子ども時代を過ごすことが、人生にとって最も大切なこと」というの が持論だ。昨今は、子どもたちや図書館への本の寄付や寒村での母親教室など、青少年健全育 成事業にも取り組む。
2004年のスマトラ沖地震。ギントタの思い出の学校の校舎は津波がさらっていったが、お気に 入りだった校内の竹林だけは現在もシャンと立つ。今、一番憂えているのは東日本大震災で夢 や目標を失いかけている日本の子どもたち。「竹のようにしなやかで強く、しっかり根を張っ て生きるのよ」。子どもに向ける目はどこまでも温かい。
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