スリランカを代表する建築家ジェフリー・バワ(Geoffrey Bawa/1919~2003年)。
ベントタは空港からもスリランカ最大の商業都市であるコロンボ(Colombo)からも約1.5時間の西海岸にあり、1960年代にスリランカ政府最初のリゾート開発の場所です(観光開発の基本設計に任命されたのがバワ)。

最近ではサントリーウイスキー『碧Ao』のテレビCM舞台となったり(『🔗スリランカホテルのバーで待ち合わせ』)、バワの建築に惹かれてスリランとカを訪れたことのある上白石萌歌さんの最新の写真集『charm charm』の撮影地となったり(『🔗スリランカ&ジェフリーバワがトレンド⁉』)しています。
日本で紹介される頻度の高いバワホテルはヘリタンスカンダラマ(Heritance Kandalama)とジェットウィングライトハウス(Jetwing Lighthouse)ですが、スリランカ南西部のベントタ(Bentota)にはバワが建築家を目指すきっかけとなったバワの家(ルヌガンガ/Lunuganga)を始めとして、バワが手掛けた建築が多く残る場所です。

ベントタは空港からもスリランカ最大の商業都市であるコロンボ(Colombo)からも約1.5時間の西海岸にあり、1960年代にスリランカ政府最初のリゾート開発の場所です(観光開発の基本設計に任命されたのがバワ)。
バワが手掛けたスポットは下記の地図の通り(●と●のマークの箇所)。
●は現在宿泊できるバワスポットです。現在ベントタには宿泊できるバワスポットが7か所あります。宿泊できるといっても、最初からホテルとして設計されたもの、最初は住宅として設計されたものなど異なります。

上記の各施設について簡単に紹介します。施設名の横の西暦は、バワが手掛けた年として記録されている年です。
❷ No.5(ナンバーファイブ):1960-1962年
【ベントタ泊まれるバワ施設】
※名前は現在(2025年5月時点)の名前です。
※各施設名をクリックすると各公式サイトにリンクします。
※金額は2025年5月時点のものです。
◆元は【住宅】として建てられたもの
❶Lunuganga(ルヌガンガ)
❷No.5(ナンバーファイブ:Lunugangaとして運営)
❸Boutique 87(ブティックエイティーセブン)
◆【ホテル】として建てられたもの
❹Cinnamon Bentota Beach(シナモンベントタビーチ)
❺Thaala Bentota(ターラベントタ)※ホテル名が変わり、Avani Bentotaから現在の名前に変わっています
◆【ブティックホテル】として建てられたもの
❻The Villa Bentota(ザ・ヴィラベントタ)※運営会社が変わり、Paradise Road The VIllaから現在の名前になっています。
❼Club Villa Bentota(クラブヴィラ)
❶ Lunuganga(ルヌガンガ):1948-1998年
ルヌガンガは建築家としてのバワの全ての原点といえる場所です。
バワは38歳で建築家としてのキャリアをスタートさせました。そのきっかけとなったのが、このルヌガンガです。
19歳で法学を学ぶためイギリスに留学したバワは、その後の多くの時間を海外で過ごします。弁護士として生活していたバワは、29歳の時にイタリアにヴィラを購入し永住しようとしていましたが上手くいかず、全てを手放し1948年1月にスリランカに戻ります。
スリランカに家がなかったバワはしばらく兄のベヴィス バワ(Bevis Bawa)※の家に居候しながら、自分の理想とする土地を探すために紹介された30近くの土地を見ていく中で、べントタのシナモンとゴム農園の土地を購入し庭園の整備や家の改装に乗り出します。それがルヌガンガです。
構想やアイデアは溢れるものの、それを具体化するための専門知識の欠如を自覚したバワは34歳にしてイギリスの建築学校に留学し、38歳でスリランカに戻り建築家としての道をスタートさせました。
建築年代が1948-1998年と記載されている通り、バワが生涯手を加え続けた場所でもあります。
現在5棟7室に宿泊が可能です。
宿泊以外にも、1日3回(11時、14時、15時)のガーデンツアー(個人の場合は事前予約不要ですが遅刻厳禁・外国人料金USD20※7歳以下は無料) に参加が可能です(ガーデンツアーでは宿泊棟は見学できません)。ルヌガンガは宿泊者またはガーデンツアー参加以外で見学はできません。また、ガーデンツアーの参加者は、ガーデンカフェ(10時から17時)での飲食が可能です(以前可能であったメインハウスでの飲食は、宿泊者のみに変わりました)。
※補足)ベヴィス バワはバワより10歳上で、元はイギリス総督の副官ならびに両親より譲り受けたベールワラの土地でゴム農園のオーナーをする傍ら、家の周囲を整備し『ブリーフガーデン(Brief Garden)』を作りました。その庭が評判を呼び、各国の大使館や公共の建物、民家などの造園を委託されるようになり、造園家として名が知られた人です。ちなみに風刺画家としても有名です。ブリーフガーデンについては以前ブログに投稿していますので、ご興味がある方はご覧ください⇒『🔗映画のロケ地スリランカ『Elephant Walk/巨象の道と バワの兄の庭』
ルヌガンガについては、以前記事にしていますので下記をご参照ください。
「ルヌガンガ」として運営されていますが、この建物は実際はルヌガンガから約400メートル離れた場所にあります。
元はスリランカを代表するバティックアーチストで、バワ建築に欠かせない存在でもある、エナ デ シルバ(Ena De Silva)とその夫オスマンド(Osmund De Silva)の住居として、1962年にコロンボに建てられました。
2009年にこの家が売却されたときに、バワ財団が買い取りベントタのルヌガンガに隣接する土地に移築し、2016年に完成しました。現在1棟3室に宿泊が可能です。上記の1日3回(11時、14時、15時)のルヌガンガのガーデンツアーに追加料金(USD5)でNo.5の見学が可能(ただし、宿泊状況によります)です。
No.5についても、以前記事にしていますので下記をご参照ください。
❸ Boutique 87(ブティックエイティーセブン):1978年
ブティック87は、約18エーカーの敷地に2軒の家屋が建てられています。
バワの友人で、家を探していたイタリア人女流彫刻家のLidia Duchini&Gunasekara夫妻に、バワは道路を挟んで向かい合わせにある18世紀に建てられた2軒の古民家の購入を勧めたといいます。彼らはその2軒を購入し、そこからバワの改築が始まりました。
まずは片側の一軒(母屋)は、入り口が道路に面していましたが、180度家の向きを変えて入り口を内側に向けて自然豊かな庭が眺められるようにし、道路側は目隠しの壁をつくって騒音対策とプライバシーの確保ができるようにしました。
向かいのもう一軒は解体し、使えそうな出入口の枠や窓、木の柱などを残し、母屋に対して90度の位置にそれらを使って新たにバワの設計で改築されました。
現在1棟2室に宿泊が可能です。それ以外にも、事前予約必須で庭園見学(有料)やガーデンランチ(USD45/人)、ガーデンディナー(USD55/人)が可能です。
❹ Cinnamon Bentota Beach(シナモンベントタビーチ):1967-69年
スリランカ政府が推進する観光開発の一環として、依頼を受けてバワがスリランカで最初に手掛けたホテル(開業当初の名前はBentota Beach Hotel)となります。
上記のエナデシルバのバティック天井のレセプションがアイコンになっているホテルでもあります。
60年代から70年代にかけてのスリランカは緊縮財政による輸入規制で、鉄筋やガラスが不足していた時代で、バワはスリランカ国内で調達できる材料を使い、実用的な観点から建築の素材と方法を模索したホテルでもあります※。
1998年に民間に売却されて大幅に改装・改築されましたが、この建築の重要性が見直されて建物の構造をなるべくオリジナルに戻すように(外観だけでなく床やドアや窓なども)3年かけて再建(現在のヘリテージウィング)され、2020年にリニューアルオープンしています。
現在16室のスイートを含む全159室に6つのレストラン(バー、カフェを含む)を持つ5つ星ホテルです。
2025年5/10追記)5/8公開のMODERNLIVING『建築家・高取愛子さんが感動した宿、憧れのホテルベスト3』において、高取さんが海外で感動したホテルとして、このシナモンベントタビーチを上げています。ちなみに、高取さんは『ジェフリー・バワの建築思想に関する設計論的研究』を学位(工学博士)論文テーマに執筆しています。
❺ Thaala Bentota(ターラベントタ):1967-70年
スリランカ政府が推進する観光開発の一環として、ひとつ前のBentota Beach Hotelと同じくバワがスリランカで最初に手掛けたホテル(開業当初の名前はSerendib Hotel)となります。Bentota Beach Hotelと同時に手掛けられましたが、こちらは1年遅れての開業となっています。
18世紀のオランダ建築様式が取り入れられ、スリランカで一般的建築様式となった瓦屋根の長屋建てとなっています。
外観は大きく変わていませんが、それ以外は大改装を経て2011年にAvani Bentota(アバニベントタ)としてリオープンし、再度改装を経て2023年に現在の名前でリニューアルオープンしています。
現在ヴィラを含む全75室に4つのレストラン(バー、カフェを含む)を持つ4つ星ホテルです。なお、Thaala(ターラ/තාල)はもとはシンハラ語で「リズム」を意味します(このシンハラ語は元は、サンスクリット語の「リズム」に由来)。
❻ The Villa Bentota(ザヴィラベントタ):1976-1980年
元は19世紀に建てられたヴィラで、バワは改築設計を請け負いたいと考えており、友人に購入をすすめたものの、誰も買わなかったため自分で購入し、北側に部屋を追加したり小さなプールのある中庭を設けるなどの改築や改装をして、ブティックホテル『Mohotti Walauwa(モホーティワラウワ)※』としてオープンしました(※ Wallawwa/වලව්වはManor Houseのシンハラ語)。
1980年代にバワの友人に経営が移って以降、何度か所有者が変わり、2007年にはレセプション棟やメインレストラン棟が増築され、2021年に現在の経営に移っています。
現在4室のスイートを含む全15室に宿泊可能なほか、メインレストランは宿泊客でなくても事前予約なしで利用が可能です。
次に紹介するClub Villaと共にヴィラの敷地の前にある線路には柵はなく、あたかも列車がヴィラの庭を通過しているようなダイナミックな景観が堪能できる場所です。
冒頭で紹介したサントリーウイスキー『碧Ao』のサイドストーリーでは、このホテルが紹介されています。
↑SUNTORY WORLD WHISKY 碧Ao『Whisky Journey #2』2分45秒↑❼ Club Villa Bentota(クラブヴィラベントタ):1980年
ひとつ前のヴィラ(現在のThe Villa Bentota)は、友人の誰もこの物件の購入に乗り気ではなかったため、バワ自身が買い取り後に改築してブティックホテル(Mohoti Walauwe)としてオープンしたと紹介しましたが、バワに物件を勧められた友人の一人は、その物件の南側の土地を買い、バワに家ならびにツアーガイドなどに貸せるような部屋の設計を依頼しました。それがこのClub Villaです。
現在3棟17室に宿泊可能です。バワのオリジナルの建物はエントランスの前方と右手に分けられた2棟の建物で、スタンダード(9室)ならびにデラックス(4室)が入っています。南側にある独立した棟は、バワのアシスタントであったチャンナ・ダスワッテによる増築部分で、デラックス(3室)ならびにスイートルーム(1室)から成ります。
ちなみに、2014年より日本のばんせい証券が運営をしており、リノベーションは隈研吾氏が手掛けています。書籍も出版されています↓
↑バワと研吾 ―クラブ・ヴィラ― The Bridge of Culture vol.02↑● ツーリストビレッジとベントタ駅:1967-69年
スリランカ政府が推進する観光開発の一環として、Bentota Beach HotelとSerendib Hotel(いずれも開業時の名前)の設計を請け負ったバワですが、同時に鉄道駅とツーリストビレッジの設計も請け負いました。
ツーリストビレッジは、警察署や銀行、郵便局を含んだ土産物店が入るショップの建物と広場で構成されています。
プルメリア(シンハラ語でアラリヤ/අරලිය )の並木。バワ設計の場所には、プルメリアの植栽が多くみられます。
宿泊可能な施設が7か所あるので、全てに泊まるには7泊必要ということになりますが、7泊は困難という方がほとんどでしょう。全てのスポットは近接(5km圏内)しているために、見学だけなら1日で全て見て回ることもできますが、出来れば最低1泊2日の滞在をお勧めします。
その1泊のバワ施設をどこにするか。個人的にはルヌガンガが一番好きですが、ルヌガンガ(No.5を含む)やBoutique87の客室にはテレビはありません。またミニ冷蔵庫も一部の部屋を除いて置いていませんので、敬遠する方もいるでしょう。
また、ルヌガンガは宿泊ならではの魅力はありますが、ガーデンツアーで訪れるから他のバワ施設に宿泊したいという方もいるでしょう。
食事に焦点を当てた場合、様々な種類が食べられるブッフェ(バイキング)形式がいいという場合は、Cinnamon Bentota BeachやTaala Bentotaがいいかと思います。その他の施設は、食事は基本的にブッフェではありません。食事のスタイルで選ぶのも一案ですし、少人数の場所を好むならば全客室数が少ない場所を選ぶのも一案です。
宿泊場所を決めたら、1日目の昼食や2日目の昼食を宿泊場所以外のバワ施設でとると、それだけで宿泊施設も含めて3か所のバワ施設を訪問することが出来ます(場所によっては事前に予約が必要です)。ベントタ駅とツーリストビレッジは自由に立ち入りできます(ただし、駅は列車の発着時刻に重なる場合は切符が無いと構内に入れないこともあります)。
Lunuganga(No.5を含む)やBoutique87のように宿泊者以外は有料の施設を除けば、基本的に施設に依頼すれば館内見学が可能(多くは公共エリアのみ)ですが、ブティックホテルなどは一定数の宿泊者がいる場合は、立ち入りを断られる場合もありますので注意が必要です。
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